役員報酬はどこまで低くできるのでしょうか。法律上の最低額はありませんが、下げすぎると社会保険や将来の年金額に影響します。この記事では、0円にできるかどうかと、社会保険料が最低ラインになる金額を、国税庁・日本年金機構のデータをもとに解説します。
結論からお伝えすると、役員報酬に法律上の最低額はなく0円も可能ですが、社会保険に加入できる範囲を「実質的な最低ライン」として考えるのが安全です。図解と表で詳しく見ていきましょう。

木村 優太CFOne会計事務所 所長税理士
累計300社以上の申告を手がけ、freee導入実績全国1位の会計事務所で「freee Master of the Year」を受賞した現役の税理士・会計事務所の所長が、本記事の内容を監修しています。
監修者の詳細を見る役員報酬に法律上の最低額はある?
ここでは、役員報酬にそもそも法律上の最低額があるのかを確認します。まずは制度の基本を押さえましょう。
役員報酬に最低賃金の規制はかからない
従業員に支払う給与には最低賃金法が適用され、都道府県ごとに定められた金額を下回ることはできません。一方、役員報酬は「労働の対価としての賃金」ではなく、会社の経営を担う役員への報酬という位置づけのため、最低賃金法の対象外です。
そのため、制度のうえでは役員報酬をいくらに設定しても、0円にしても違法ではありません。ただし、金額を自由に決められることと、それが得策かどうかは別の話です。次の章で、最低額にすることで生じるデメリットを確認していきましょう。
役員報酬0円の会社も実際に存在する
実務上、役員報酬を0円に設定している法人は珍しくありません。とくに、会社を設立したばかりで利益の見通しが立たない時期や、本業の給与収入がある人が副業として法人を経営する「マイクロ法人(社会保険や税金面のメリットを目的に、あえて小規模なまま運営する一人法人)」でよく見られる選択です。
0円にすれば個人の所得税・住民税・社会保険料の負担は生じませんが、その分だけこのあと説明するデメリットも発生します。役員報酬を0円にするかどうかは、目先の負担軽減だけでなく、将来の年金額や信用面まで含めて判断することが大切です。
役員報酬を最低額にする4つのデメリット
ここでは、役員報酬を無理に低く抑えたときに生じやすい4つのデメリットを解説します。目先の負担軽減だけで判断すると、あとで後悔することもあります。

厚生年金の将来の受給額が減る
会社員や役員が加入する厚生年金は、納めた保険料の金額に応じて将来受け取る年金額が変わる仕組みです。役員報酬を最低ラインまで下げると、月々の保険料負担は軽くなりますが、その分だけ老後に受け取る年金額も少なくなります。
とくに現役期間が長い人ほど、将来の年金額への影響は無視できません。目先の社会保険料を抑えることと、老後の生活資金を確保することは、トレードオフの関係にあると理解しておく必要があります。
給与所得控除が使えず節税メリットを逃す
役員報酬(給与)を受け取ると、税金の計算上「給与所得控除(給与所得者の必要経費に相当する概算控除)」が自動的に差し引かれます。国税庁の「給与所得控除」によると、給与収入が少ない場合でも最低55万円の控除が受けられます。
役員報酬を0円にすると、この控除の恩恵を受けられません。個人の税負担は減っても、その分だけ会社の利益が増え、法人税の負担が重くなる場合がある点に注意が必要です。
銀行融資や信用調査の評価に影響する
役員報酬が極端に低い、または0円だと、金融機関や取引先の与信審査で「代表者の生活実態が不透明」「事業の安定性に懸念がある」と判断されることがあります。
とくに創業融資や住宅ローンの審査では、役員報酬(個人の収入)の金額が重視されるため、無理に低く設定すると希望する融資が受けにくくなる可能性があります。資金調達の予定がある場合は、この点も踏まえて金額を検討しましょう。
社会保険の扶養や家族の生活費に影響する
役員報酬を大きく下げると、家族を健康保険の扶養に入れられなくなったり、生活費そのものが不足したりする可能性があります。役員自身や家族の生活を役員報酬でまかなっている場合は、最低ラインまで下げるのは現実的ではありません。
役員報酬の金額判断や、下げた場合の税負担の見通しに不安がある方は、AI自動仕訳で会社の利益状況を把握しやすい会計アプリ「シフォン(CFOne)」のオンライン相談を活用するのも一つの方法です。
社会保険料が最低額になる役員報酬はいくら?
ここでは、社会保険料の負担が最も軽くなる役員報酬の金額を、日本年金機構・全国健康保険協会の最新データから確認します。
厚生年金保険の下限は標準報酬月額88,000円
社会保険料は、実際の役員報酬の金額そのものではなく、「標準報酬月額(報酬を一定の幅で区切って決める、保険料計算のもとになる金額)」をもとに計算されます。日本年金機構の「厚生年金保険料額表」によると、厚生年金保険の等級は最も低い1等級で標準報酬月額88,000円(報酬月額93,000円未満が対象)です。
この等級の保険料率は18.3%で、月額16,104円(労使折半のため本人負担は8,052円)です。役員報酬をこれより低く設定しても、厚生年金保険料がさらに安くなるわけではありません。
健康保険(協会けんぽ)の下限は標準報酬月額58,000円
健康保険(協会けんぽ)は厚生年金より等級区分が細かく、最も低い1等級は標準報酬月額58,000円(報酬月額63,000円未満)です。全国健康保険協会の「保険料額表」(東京支部)によると、この等級の健康保険料は月額5,713円(本人負担2,856.5円)です。
保険料率は都道府県ごとに異なるため、正確な金額は所在地を管轄する支部の保険料額表でご確認ください。
| 制度 | 最低等級の標準報酬月額 | 対象となる報酬月額 | 保険料(本人負担・月額目安) |
|---|---|---|---|
| 厚生年金保険 | 88,000円(1等級) | 93,000円未満 | 8,052円 |
| 健康保険(協会けんぽ・東京) | 58,000円(1等級) | 63,000円未満 | 2,856円 |
| 合計(本人負担目安) | – | – | 約10,900円/月 |

社会保険に加入できるかが実質的な境目
標準報酬月額の等級そのものより重要なのは、役員報酬が「労務の対価」として実態を伴っているかどうかです。報酬が極端に少なく実質的に無報酬とみなされる場合、社会保険の被保険者資格が認められないことがあります。
つまり、社会保険に加入し続けたいのであれば、0円ではなく、上記の等級に対応する程度の役員報酬を設定しておくのが実務上の目安になります。日々の記帳を整理して手取り額をすぐ確認できるようにしておくと、こうした金額の見極めもしやすくなります。記帳の手間を減らしたい方は、AI自動仕訳に対応した「シフォン(CFOne)」も選択肢の一つです。
役員報酬の相場や決め方そのものは、下記の記事でも詳しく解説しています。
役員報酬を0円にするとどうなるか
ここでは、役員報酬をあえて0円に設定した場合に、実務上どのような変化が起きるのかを整理します。

健康保険・厚生年金に加入できなくなる
役員報酬を0円にすると、労務の対価としての報酬が発生しないため、原則として会社の健康保険・厚生年金保険の被保険者資格を維持できません。すでに加入している場合は、資格喪失の手続きが必要になります。
国民健康保険・国民年金への切り替えが必要になる
社会保険の資格を喪失すると、代表者は市区町村が運営する国民健康保険と国民年金に加入し直す必要があります。国民健康保険には労使折半の会社負担がないため、世帯によっては保険料の負担がかえって重くなる場合があります。扶養家族がいる場合は、家族も同様に切り替えが必要になる点に注意が必要です。
所得税・住民税はかからないが法人税は増えやすい
役員報酬が0円であれば、個人の所得税・住民税の所得割は発生しません。国税庁の「給与所得」のとおり、給与収入がなければ給与所得も生じないためです。ただし、住民税には所得にかかわらず一定額を負担する「均等割」があり、報酬が0円に近くても均等割だけは別途かかる場合があります(金額は自治体により異なるため、詳細はお住まいの市区町村にご確認ください)。
一方、役員報酬は本来会社の経費(損金)になる支出のため、0円にするとその分だけ会社の利益が増え、法人税の負担が重くなる場合があります。中小法人の法人税率は、国税庁の「法人税の税率」によると、所得のうち年800万円以下の部分が15%、800万円超の部分が23.2%です。個人と法人の税負担をあわせて考えることが大切です。
役員報酬を最低額にすべきケース・避けるべきケース
ここでは、役員報酬を最低額に近づけてよいケースと、避けたほうがよいケースの見極め方を解説します。
最低額が向いているケース
本業に給与収入があり、副業として法人を運営している人(複業マイクロ法人)や、配偶者の収入で生活費をまかなえる人は、役員報酬を最低ラインに近づけても生活への影響が小さく、社会保険料・所得税の負担を抑えるメリットが大きくなりやすいケースです。本業の勤務先ですでに社会保険に加入している場合は、役員報酬を低めに設定しても社会保険の空白期間を避けられます。
マイクロ法人と社会保険の関係は、下記の記事でも詳しく解説しています。
最低額を避けたほうがよいケース
役員報酬が生活費の主な収入源である人、創業融資や住宅ローンの審査を控えている人、将来受け取る年金額を重視したい人は、無理に最低額へ近づけるのはおすすめできません。目先の税負担・社会保険料の軽減と、生活の安定・将来の年金額はトレードオフの関係にあることを踏まえ、自社の状況に合わせて判断することが大切です。
「自分の場合はどちらのケースに近いか分からない」という方は、税理士監修の会計アプリ「シフォン(CFOne)」のオンライン相談で、利益の状況と合わせて相談することもできます。

役員報酬を決める・変更する際の注意点
ここでは、役員報酬を最低額を含めて決定・変更する際に、税務上守っておきたいルールを解説します。
定期同額給与と3か月以内の改定ルール
役員報酬を会社の経費(損金)にするには、原則として「定期同額給与(毎月同じ時期に同額を支給する役員報酬)」にする必要があります。国税庁の「役員に対する給与」によると、金額を変更できるのは事業年度が始まった日から3か月以内が原則です。
最低額から通常額へ、あるいはその逆へ変更したい場合も、このタイミングを逃すと変更した分が損金として認められない可能性があります。
所得税は累進課税、住民税には均等割もある
役員報酬を受け取る個人には所得税・住民税がかかります。国税庁の「所得税の税率」によると、所得税は5%から45%までの累進課税(7段階)です。役員報酬が少なければ所得税・住民税の所得割は軽くなりますが、住民税の均等割は所得の多寡にかかわらず一定額がかかる場合があるため、あわせて確認しておきましょう。
役員報酬を最低額に近づけると、法人と個人のどちらにどれだけ税負担が生じるかの見通しが立てにくくなりがちです。日々の記帳を整えて利益と手取りを正確に把握しておくことが、金額判断の前提になります。
役員報酬の会計・申告を正しく回す方法
役員報酬を最低額まで下げるかどうかを判断するには、会社の利益・税負担・社会保険料の全体像を正確に把握しておくことが欠かせません。とはいえ、経理や税務の知識がないなかで一人で対応するのは負担が大きいものです。
AI会計アプリ「シフォン(CFOne)」なら、AI自動仕訳で記帳の手間を減らしながら、会社の利益状況をいつでも確認できます。会計事務所(CFOne会計事務所)が自ら開発し、税理士が監修しているため、役員報酬の決め方のような専門的な悩みもオンライン相談で相談できます。
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従業員10名以下の法人や一人社長で、役員報酬の金額判断や記帳・申告の負担を減らしたい方。
役員報酬とあわせて、経理・記帳の基礎を整理したい方は経理・記帳のコラム、専門家への依頼を検討している方は税理士のコラムもあわせてご覧ください。
役員報酬の最低額に関するよくある質問
ここでは、役員報酬の最低額についてよくある質問をまとめました。判断に迷ったときの参考にしてください。
- 役員報酬は0円にしても問題ないですか?
- 法律上は0円にしても違法ではありません。ただし社会保険に加入できなくなる、法人税が増えやすいなどのデメリットがあるため、目的に合うか慎重に判断する必要があります。
- 社会保険に加入できる役員報酬の最低額はいくらですか?
- 厚生年金は標準報酬月額88,000円(報酬月額93,000円未満)、健康保険は58,000円(63,000円未満)が最も低い等級です。この程度の報酬があれば加入できる目安になります。
- マイクロ法人は役員報酬をいくらにすべきですか?
- 本業に給与収入がある複業マイクロ法人の場合、社会保険料・所得税を抑える目的で低めに設定するケースが多いですが、具体的な金額は税理士に相談のうえ決めることをおすすめします。
- 役員報酬を最低額にすると年金はどのくらい減りますか?
- 厚生年金は納めた保険料に比例して将来の受給額が決まるため、最低ラインで納め続けると通常より年金額は少なくなります。具体的な減少幅は加入期間により異なります。
- 役員報酬を最低額から通常額に戻すタイミングはいつがよいですか?
- 定期同額給与のルール上、変更できるのは事業年度が始まった日から3か月以内が原則です。見直しを検討する場合は期首のタイミングに合わせて準備しましょう。
まとめ
役員報酬に法律上の最低額はなく、0円にすることも可能です。しかし、厚生年金の受給額が減る、給与所得控除が使えない、銀行融資の評価に影響するなど、いくつものデメリットがあります。社会保険に加入し続けたいのであれば、厚生年金は標準報酬月額88,000円、健康保険は58,000円という最も低い等級に対応する程度の金額を、実質的な最低ラインとして考えるのが安全です。
最低額が向いているかどうかは、本業の収入の有無や融資予定、将来の年金額をどれだけ重視するかによって変わります。金額を変更する際は、事業年度開始から3か月以内という期限も忘れずに、自社の状況に合った金額を検討しましょう。
役員報酬や会計のことを相談したい方へ
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無料で相談する本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の税務・社会保険上の判断を保証するものではありません。役員報酬の最低額(社会保険料・税額の目安)は参考値であり、適正額は会社ごとに異なります。制度・税率・保険料率・期限等は改正される場合があります。実際のお手続きや判断にあたっては、最新の情報を国税庁・日本年金機構・全国健康保険協会等の公式サイトでご確認のうえ、必要に応じて税理士や所轄の税務署・年金事務所にご相談ください。

